「あの……」
その女の人はお兄ちゃんに近寄って行く。
私は咄嗟に女の人を掴まえた。
「あのっ、陵って誰ですか?」
「え……?」
「彼は陵なんて名前じゃないですよ?私の従兄弟で湊って言うんです」
「でも……」
「人違いじゃないですか?」
女の人は暫く黙ってお兄ちゃんの方を見ていた。
「そうよね……陵の訳ないわね。お騒がせしてごめんなさい」
「あっ……その陵って人は、あなたの大切な人なんですか……?」
その人があまりにも切なそうな顔をしてるので、気になってつい聞いてしまった……
「そうね、大切な人だった……。もう会えないんだけどね……」
何故かそれ以上は何も聞けなかった……
「あれ〜?どうした?何かあった?」
重たい空気を壊すように入って来たのは、いくつもの袋を持った尚哉くんだった。
「あ、尚哉くん。遅かったね」
「そうなんだよ!ったくりょ
「あああぁぁっ〜とぉ……」
「うるさっ!何だぁイキナリ?」
「う、ううん。お腹すいたから早く食べたいなぁ〜って」
「ははっ唯は食いしん坊だな」
私は愛想笑いを返しながら、横目で女の人を見る。
彼女の視線は、お兄ちゃんに注がれたままだった……
