「唯に何してる……」
それはお兄ちゃんの声だった。
それも怒ってる……
顔を見なくても解る程の冷たい声
でも、先輩は抱き締めたその手を離そうとはしなかった。
「あなたじゃ、唯を幸せに出来ない。違いますか?」
「っ……それは……」
「あなたが側にいると、唯はいつまでも先に進めない」
「先輩っ!やめて下さい!!」
私は先輩の腕を半ば強引にほどいた。
先輩の言う事は当たってるかもしれない。それでも側にいてほしいと望んだのは、私自身……
「お前に何が解る……。何も知らないくせにっ!!」
「くっ……」
お兄ちゃんは先輩の胸ぐらを掴み、今にも殴りかかろうかという勢い。
突然声を張り上げたお兄ちゃんに、周りがざわめきだした。
「お兄ちゃんっ、やめて!」
私がお兄ちゃんを止めようとした時だった。
「陵……?」
人混みの中からお兄ちゃんの名前を呼ぶ声。
近寄って来たのは私の知らない女の人だった……
「……!?」
お兄ちゃんは一瞬驚いた顔をして、瞬時に帽子を深く被り直した。
この人は……?
