「わわわわっ参った!お兄ちゃんの負け!!だから剃るなっ」
「剃らないで下さい。唯様。Repeat after me」
「ぐっ……」
「…………」
「お、お兄ちゃんに何を言わせるつもりだ!お兄ちゃんは偉いんだぞっ」
私はソッと化粧ポーチからフェイス用カミソリを取り出す。
キラーンと光が反射するように刃を傾け、ジタバタするお兄ちゃんに嘲笑を向ける。
「猫ちゃんの時に剃った毛って、人型に戻ったらどうなるんだろうね!楽しみ……」
カミソリを、ゆっくりお兄ちゃんに近づける。
お兄ちゃんは脅える様な目をして、カミソリを凝視していた。
「ゆゆゆ、唯っ!冗談だよな?そんなもん危ないから早く片付けて、な?」
私は手を止めなかった。
お兄ちゃんの言葉を無視してそっと刃を入れる。
ジョリッと少しだけ刃を進めたところで、悲痛な叫び声が響きわたる。
「にゃぁぁぁぁ!!ごめんなさいっ!剃らないで下さい!唯様っっ」
私はひとつまみの剃った毛を、お兄ちゃんに見せつけるようにパラパラと落とした。
「あぁ、俺の毛……」
「お兄ちゃんが早く言わないからだよ」
「男にはプライドってものがあるんだっ!!」
「ふ〜ん。ま、それはどうでもいいんだけど。それより何で……」
「そこで何をしてる?」
突然の声に振り向くと、そこにはよく見る制服を着た男の人が……
それは、お巡りさんっ!?
ってか今の状況って、猫の尻尾掴んで片手にカミソリ……
めちゃくちゃ怪しいじゃん!
「唯っ、逃げるぞ!」
「もちろん!!」
私はお兄ちゃんの尻尾を掴んだまま、お巡りさんが居る逆方向へと走りだした。
