自分の頭の中にかかる靄が晴れそうな気がして、先輩の顔をジーッと見つめた。

すると不意に先輩が私を抱き締めた……




「そんなに見つめたら照れるだろ。……唯は俺の事が好きか?」

「え……?あ、うん。もちろん……」

「……やっぱり敵わないな」



先輩は少し淋しそうに呟いた後、そのまま私の体をグッと抱き寄せた。

先輩とキスするのなんて初めてじゃない……けど、けど……!


私は先輩をおもいっきり押し返した。そして思わず口走ってしまった言葉に、呆然となった……




「ごめんなさい!先輩の事は好きだけど、私はお兄ちゃんがっ…………」

「お兄ちゃんが?」

「……お兄ちゃん?」



私にはお兄ちゃんなんていない。それなのに、何で……?

気がつくと、先輩が私の頬を撫でていた。訳も分からず溢れる涙を拭う為に。




「泣くなよ……。そんなんじゃ、陵さん悲しむぞ?」

「陵……?陵、陵……」



何かを思い出せそうで、でも思い出せなくて……

そんな時、部屋の天井辺りが赤く光る。時間を知らせる赤いランプだ。


『時間ニナリマス。自動的ニドアガ開キマスノデ、先ニオ進ミ下サイ』






私は先輩に手を引かれ、何とか先に進んだ。

でも頭の中にあるのは『陵』という名前だけ……