「確かにスカウトする事自体は何の問題もありません。ですが、スカウトしたからと言って必ずしも悪魔になれる訳ではないのです」
イグルスさんは、その時になってみないとこれ以上の事は言えないって……
つまり、一種の賭けのようなものって事……
「唯さん、私には陵の気持ちが痛いほど解ります。陵はきっと、何をしてでも唯さんを守ると思うんです」
「お兄ちゃんの気持ち……?」
「はい。私も同じでしたから」
そう言うと、イグルスさんは自分が悪魔になった時の事を少しだけ口に出した。
「私が助けたかったのも、妹でした。私と10歳も離れた体の弱い子で、ほとんど私が養っていたと言っても過言ではありません」
「イグルスさんにも妹さんが?」
「私は必至で働いていました。働き過ぎて過労で死んでしまったのです……。妹の為に働いていたのに、その妹を守れなくなってしまった……滑稽な話です」
少し自嘲気味に話すイグルスさんは、とても辛そうだった……
「私は死んだ時にすぐ妹の事を聞きました。しかしもともと体の弱い子でしたから、そう長くはないと……。私は彼女を守るために悪魔になる決意をしたんです。自分の全てを引き換えにしても助けたかった……」
そこまで話すとイグルスさんは黙り込んでしまった。
イグルスさんがここに居ると言う事は助けられなかったって事だもんね……
時折見せていたあの悲しそうな表情は妹さんを思い出していたからなんだ……
もし、私が死んでしまったらお兄ちゃんも同じ悲しみを背負う事になるんだよね……
