『あの、これ……』

最悪だ。

『昨日の、お礼です……』

怖(オ)ず怖ずと出された菓子折りに、思わず、深い溜め息が出る。

何でまた、この夢なんだよ。
何でまた、葉月が出てくんだよ。

日記の見すぎか?
葉月の呪いか?

実際、寝てるのにな。
めちゃくちゃ疲れるよ。

『嫌い……でしたか?』

目の前に立つ高校生の葉月は、怯えたような目を見せ、菓子折りを一度引っ込めた。

それに、教室の入口ってのもあって、他の奴らの視線が痛い。

『嫌いじゃないよ。 ありがとう』

小さな手から菓子折りを受け取る瞬間、一瞬だけ葉月の肩がビクンと跳ねた。

相変わらずだな。
夢の中まで葉月だ。

少し気が小さくて、人の顔色を伺いながら話す。

あまり目立つタイプじゃなかったから、俺も今まで知らなかったしな。

『いいえ。 こちらこそ、ありがとうです』

でも、この遠慮がちの笑顔が可愛くて、好きになったんだ……

『では、また……』

……なんだよ。
もう帰るのか。

せっかく、また会えたのに……

『……葉月』

呼ぶつもりなんてなかった。
ほら、葉月も驚いた顔してるし。

「何で私の名前知ってんのよ!?」ってな感じ?

でも、さ。
日記で「名前聞くぞ〜」なんて意気込んでた葉月を知っちゃったからさ。

『瑛太だよ。 武長瑛太』

夢の中限定、出血大サービスってやつ。

『またね。 葉月……』