父はマウスのスクロールを止めた。


パソコンから視線を外し、2、3度きょろきょろと首を動かして部屋を見回す。

やがて、椅子を離れると机へと歩を進めた。
机に辿り着くと、本棚に立ててある本の背表紙を、左から順に、指でさしながら見ていった。


「これかな……」


ある、緑色の冊子で手をとめ、それを引きだした。
ハードカバーの冊子、それは、娘の中学時代の卒業アルバムであった。

「ええと、ゆか、ゆか、っと……」

パラパラとページをめくり、指で顔写真をなぞってゆく。その指は、ある写真の上で止まった。


「野村優佳、か……告別式に来てた子、だな……」