「うわ……俺、北舎の三階に来たの初めてかも」
高瀬は楓の後ろを歩きながら呟く。目線はキョロキョロと動き回り、落ち着きがない。
ホームルーム教室がある校舎は南舎といい、四階まである。それに対して北舎とは、理科室や調理室、PTA室といった特別室がある校舎のことで、五階まである。
しかし、殆どの生徒は二、三階までしか北舎を利用しない。他に人気が感じられない為二人きりだろうと推測出来るほど誰もいない。この学園に三年間通っている高瀬が初めてだと呟くのも当然だ。
「あ、生徒会室ってこんな所にあったんだ」
四階で高瀬がそんな発見をしている間にも、楓は更に階段を上っていく。
「え? えーっと、一条先輩!」
「何?」
平然と階段を上り続ける楓を声で制す。
「北舎って五階までですよね? その、これ以上は……」
「ああ、もっと上があるから」
再び笑みを向けられ、高瀬はたじろぐ。宛ら頭上に疑問符を大量に浮かべているようだ。それでも高瀬は促されるままに楓の後をついて行く。
上りきった先には、灰色の扉が一つ。楓はその把手に手を掛ける為、高瀬に背を向ける。
「ようこそ、立ち入り禁止の屋上へ」
背中越しの筈なのに、彼女の声ははっきりと聞こえる。階段中に反響するその声が消えないうちに、彼女はゆっくりと把手を回して扉を開ける。
薄暗い世界を抜けた向こう側には、澄んだ空が広がる。目線を落とせば、その青を遮る緑色のフェンスが聳え立っている。更に目線を横にずらせば、貯水タンクが。そしてその奥の方からは男女の声が。
「ねえ、真澄くん」
はっきりと消えるそれに、高瀬は思わず声を潜める。
「この声────」
それは、高瀬にとっては聞き慣れた飛鳥の声だった。
高瀬は楓の後ろを歩きながら呟く。目線はキョロキョロと動き回り、落ち着きがない。
ホームルーム教室がある校舎は南舎といい、四階まである。それに対して北舎とは、理科室や調理室、PTA室といった特別室がある校舎のことで、五階まである。
しかし、殆どの生徒は二、三階までしか北舎を利用しない。他に人気が感じられない為二人きりだろうと推測出来るほど誰もいない。この学園に三年間通っている高瀬が初めてだと呟くのも当然だ。
「あ、生徒会室ってこんな所にあったんだ」
四階で高瀬がそんな発見をしている間にも、楓は更に階段を上っていく。
「え? えーっと、一条先輩!」
「何?」
平然と階段を上り続ける楓を声で制す。
「北舎って五階までですよね? その、これ以上は……」
「ああ、もっと上があるから」
再び笑みを向けられ、高瀬はたじろぐ。宛ら頭上に疑問符を大量に浮かべているようだ。それでも高瀬は促されるままに楓の後をついて行く。
上りきった先には、灰色の扉が一つ。楓はその把手に手を掛ける為、高瀬に背を向ける。
「ようこそ、立ち入り禁止の屋上へ」
背中越しの筈なのに、彼女の声ははっきりと聞こえる。階段中に反響するその声が消えないうちに、彼女はゆっくりと把手を回して扉を開ける。
薄暗い世界を抜けた向こう側には、澄んだ空が広がる。目線を落とせば、その青を遮る緑色のフェンスが聳え立っている。更に目線を横にずらせば、貯水タンクが。そしてその奥の方からは男女の声が。
「ねえ、真澄くん」
はっきりと消えるそれに、高瀬は思わず声を潜める。
「この声────」
それは、高瀬にとっては聞き慣れた飛鳥の声だった。
