高瀬は関に連れられ、彼の部室へとやって来た。
 壁一面の本棚にはずらりと本が並んでいる。高瀬がちらりと目をやれば、漫画や雑誌も結構あるのに気付く。パソコンが数台、コピー機が一台、あとはよく分からない機械等がある。
 真澄の所属する部活──それは文芸部だ。

「真澄に彼女が?」

 椅子に後ろ向きに座る高等部の生徒──一条楓が、関の言葉を聞き返す。

「はい。一条先輩なら知ってるかと思って」
「聞いたことないけど」

 楓は少しばかり思案した様子を見せるが、あっさり答える。実に清々しく、きっぱりと。

「幼馴染みじゃないんですかー? 一条先輩達は」

 少し離れた所から声が入る。部内の三年で唯一の女子である岡だ。

「あのねえ、岡ちゃん。確かに幼馴染みだけど、あたしも真澄も寮生よ? 中等部と高等部って寮も校舎も違うし」
「でも先輩達って、いっつも一緒にいるイメージがあるんですもん」
「んー、よく一緒にいるけど、だからってお互いの全てを知ってる訳じゃないから」

 そこで関はふと何かを思い出したらしく、会話に入る。

「そういや岡、お前その久米って奴と同じクラスじゃないか?」
「ああうん。普通に話すし、仲良い方だよ」
「マジでっ!?」

 岡の言葉に、高瀬が食い付く。キラキラと瞳を輝かせて。

「でも久米さんの恋話って、全っ然聞かなかったしなあ」

 そう言われてしまえばそれまで。
 高瀬は再び項垂れる。

「でも、あたしの真澄が奪われるってのは納得出来ないよね」

 その言葉を聞き、部員達が「やっぱりな」と思ってしまったのは何故だろう。逆に慣れない状況に一人ポツンと立たされ、高瀬だけは戸惑っている。

「えと、一条先輩?」
「高瀬くん、よね。真澄が居そうな所、一緒に行く?」

 にっこり笑みを浮かべる楓に、高瀬は狼狽えることしか出来ない。