「先に行ってても良かったのに」
「真澄くんが一緒にいないと入れないのに?」
「……確かに」

 じゃあ行くか、と然も当然のように二人でどこかへ行ってしまった。
 関をはじめとする真澄のクラスメイト達は、唖然としている。彼らは、整った顔立ちと茶髪の所為で悪目立ちする真澄が、大体どのような性格か知っているからだ。
 真澄はそこそこ親しい間柄である友人でさえ、面倒だと言ってシカトすることがある。だからこそ、話しているところを見たこともない女子とああも言葉を交わしていたという事実を受け入れ難い。

「時枝っ」

 静まり返っていた教室に、騒々しさがやってきた。

「あ、あれ……?」

 突然現われた彼──高瀬は、キョロキョロと教室内を見回した。勿論お目当ての真澄はもう既にここにはいない。

「時枝ならどっか行ったけど」
「え、マジで!?」

 関の言葉に、彼は衝撃を受けた様な表情をし、項垂れる。もし彼に犬の耳や尻尾があるなら、どちらも元気なく垂れているに違いない。

「で、どうするんだ?」
「この際もう関でも誰でも良いよっ」

 焦っているのか、高瀬は形振構わず自分の携帯電話の画面を見せる。

「時枝が、久米さんと付き合い出したってマジなの!?」

 画面に映されているのは、紛れもなくこの学園の裏サイト。それも例の書き込みが載せられているページだ。
 先程その事実らしきものを見てしまった教室内の人々は、再び静かになってしまう。ヒソヒソと話すことさえ出来ない雰囲気だ。

「なんで俺に訊く?」

 沈黙を破ったのは関。
 彼の問い掛けは尤もで、一年の頃は同じクラスだったとは言え、三年になった今関とはそう親しい間柄ではない。普通のクラスメイトと然程変わらない程度だ。

「なんでって。時枝と部活一緒だし、何か知ってるかと思って」

 高瀬の言うように、彼の友人関係からすれば関に訊くのが至当だ。

「なら、これから部活あるけど、来るか?」