上海は空気が汚れている、と聞いていたけど、私はさほど気にならなかった。が、初めての上海はツイてなかった。
 空港に着いてタクシーに乗りいざホテルへ。初めて乗ったタクシーの印象は、「怖い」のひと言。車両はオンボロ。なのに運ちゃんは飛ばす飛ばす。おまけにそのスピードで、ケイタイかけるわ、お茶を飲むわで、私は息子の手を強く握りしめながら、ひたすら無事に着くことを祈った。
 一時間後、タクシーは無事ホテルに到着した。そこは三ツ星で、敷地内には劇場もあってそこそこの規模。なのにちょっと問題あり。日本からネットで予約したのに、「空いてない」の一点張り。こんなこともあろうかと、念のためプリントアウトした予約票を見せたら、やっと、しぶしぶOKしてくれた。まだ中国の状況に慣れていない私は、「私はお客だ!」と、心の中で叫ぶしかなかった。
 私たちは改修工事中の別館に案内された。部屋に着いてホッとしたのもつかの間、部屋の鍵がないのに気づいた。きっとさっきのポーターが置き忘れたんだ、と軽く考えていた私。廊下に出ても人の気配はないし、本館まで行くしかないか。じゃ、靴に履き替えないと・・・
「あっ、扉閉めたから入れない。」
 この時、私はホテルのペラペラ紙スリッパを履き、息子は裸足。本館へは、一旦外へ出ないと行けなかったが、仕方なく、ペラペラスリッパで息子を抱っこして行った。ところが、フロントに行っても話しが通じず、結局また別館へ。一体鍵はどこ?
 やっと見つけた一人の従業員。
「部屋の鍵はどこ?」
「私が持ってるわよ。」
と、彼女は得意げに私に鍵の束を見せた。それから続けて、
「出かける時は自分で閉めて。オートロックだから。帰って来たら私を探して、開けてあげる。だって私、鍵持ってるから。」
と、再びジャラジャラと束になった鍵を見せてくれた。 
 まさか、彼女がこの別館の部屋の鍵を全部持ってるってこと?それって、安全なの?ここは三ツ星でしょ?これが中国式?じゃ、慣れるしかないか、とムリヤリ自分を納得させた。