「反抗期?」

「そうです。お嬢様は反抗期なのではないでしょうか」

電話を後ろで聞いていた椎名は、ユリ子がしたことをすべて理解した。



「そんなバカなこと言わないで頂戴」

ユリ子の母はかなりヒステリックになっていた。

「佐瀬家のお嬢様として生まれたからには、そんな羞じる事をするなんて許されません。ああ、もう、どうしましょう。

今までこんなこと、一度もなかったのに」







椎名はユリ子の欠けた佐瀬家の変化を一番冷静に受け止めていた。


何を今更、と椎名は思う。


椎名は佐瀬家に仕えてから、お嬢様が何度となくもらしたため息を知っている。



気を抜いた瞬間、表情に出ていたではないか。






いつか、お嬢様が不満に耐え切れなくなる日が訪れると思ってはいたが、ここまでとは想像もしなかった。


きっと、彼に出会ったから。




彼に出会わなければ、今頃家にお戻りになって、お嬢様はまたつまらぬ日常をお過ごしになったことだろう。





「椎名、どうしましょう。このまま、ユリ子が戻らなかったら。私っ」

「大丈夫ですか?」

ふらりと足元をすくんだ母を椎名は抱える。

「ええ、大丈夫よ」


「少しお休みになられていた方が。何かあったら連絡いたします」

「そうね」

「お言葉ですが、素直になられたらいかがですか。夜、眠れないほど心配だと、」

「椎名!言葉を慎(つつし)みなさい」




「申し訳ございません」

母が横になるのを確認すると、椎名は一礼して、部屋を後にした。