―――ひとりだけ、思い当たる人がいる。



「はじめまして!佐瀬さんは下の名前、ユリ子って言うんだね」

「ええ。急になにかしら、水城(みずき)さん」



はじめの印象は強く残っている。



「私もユリの花の名前だよ。佐瀬さんとは違って、漢字だけど。数字の百に、理科の理でユリって読むの」

「それは、珍しいわね」



明らかに違う。

名前のようにユリの花ではないけれど、

ひまわりの様な笑顔。



とりあえず、仲良くしておこうと、佐瀬家との繋がりが欲しいと、下心をもった人が多い中、彼女にはそれがなかった。



高校3年生の春のことだ。

しかし、ユリ子は固く閉じた殻を開くことはできなかった。




信じることに、疲れていた。


怯えていた。


とにかく、友だちなんていらない。

そう、思っていた。