「バイク」
「ん?」
今度は少し顔をほころばせるユリ子。
「バイク、楽しかったぁー」
ユリ子は手を組んで、前に思い切り伸びをして、気持ちよさをあらわした。
そして続けた。
「速すぎて恐かったけど、すごい臨場感。バイクって素晴らしい乗り物ね!」
「だろ!?バイクはすごいんだぜ。速さだってまだまだ速くなる。技術が追いついてないんだ。紫煙(しえん)さんならもっと速く走る」
熱く語る男は嫌われる。
わかってはいるけれど、この話だけはどうしてもってこと、男にはある。
蓮山は止まらなかった。
「シエン酸?」
ユリ子が会話にはさむ。
「紫煙さんっていう人はなぁ、南十字星っていう暴走族の総長だった人。もう引退されていて、行方がわからない。伝説の人なんだ」
「へぇ、すごいのね」
「うんうん。そんな伝説の人に、15歳の春あったんだ・・・・・・!」
「まあ!伝説の人なのに、ですか?」
話尽くすといつも、温度差を感じる。
今のユリ子とだってそうだ。
「ごめん、つい力んじゃった」
蓮山はすぐに謝る。
そうすることで、少しは温度差は減ると思うから。
「ううん。男の人ってみんなそうなのかしら」
「そうそう。そういうもんなんだ」
温度差を確かめて安心すると、ユリ子の言ったセリフが気にかかる。
───男の人ってみんなそうなのかしら
まるで他の男もそうみたいな言い方。
でも、聞けなかった。

