声の主はユリ子だった。
「あ、ああ。ごめん。起こしちゃった?」
蓮山は驚いたが、平常心を保つ。
考えていたことが、考えていたことだけに。
「ううん。寝付けないだけ。ドキドキしてるからかな」
体育座りをして、身をかがめる姿が可愛らしかった。
蓮山は"ドキドキ"する理由を聞こうか迷った。
家出をしているから?
男の家に泊まったから?
それとも、俺の為?
「いいな。お友だち」
ユリ子の声で蓮山は我にかえる。
そんなこと考えていたら沈黙が続いてしまった。
ユリ子がうらやましそうに、弘人をみてから蓮山へ顔を向ける。
「いないの?友だち」
「いないわけじゃないけど。本当のお友だちじゃない。みんな、下心あるの」
「ふーん」
複雑なのかなお嬢様って。
ユリ子はまた、悲しそうな顔をしていた。
バスの中でみた横顔を同じ。
人生、つまんないって顔。

