初夏の夜は虫がいっぱいで、

ちょっと気持ち悪かった。



バイクの速度を上げるたびに、

ベチベチと当たる。


口を開けたら、と思うとゾっとする。



だから、ふたりとも無言のまま、ずっと走ってた。



でも、気持ちは通ってた。


ずっと、手を握っていたから。




このまま時間が止まればいいのに。




「・・・・・・帰りたくないよ」
相変わらず、風の音はうるさかった。


「なんか言った!?うぇっ虫入っったぁ!」



「クスクス」

ユリ子は大笑いしたいところを抑えて笑う。



蓮山は舌を出して、ミラー越しにユリ子へ伝えた。

再び笑いが込み上げる。



「ひゃめてっ(やめてっ)」
ユリ子は口を開けないように、蓮山の服を引っ張っる。


カーブに差し掛かった。

相変わらず、見事だ

なにもわからないユリ子さえわかる。





「・・・・・・帰らせたくない」
蓮山の声は風に掻き消され、ユリ子まで届かなかった。