「それが、帰りたくないとおっしゃっていたので、ご友人の家に泊まると、あの、ご主人様?」


「なんだ?」


「私の判断で大変申し訳ございませんが、お嬢様とそのご友人の家に三日間だけ泊まる、と、約束を交わしました」


「そうか」


ご主人様はこの嘘を信じただろうか。


もうひとつ、嘘を真実にするための嘘が必要だろうか。



この判断が今後を大きく左右する。



「ご主人様。ご友人のお母様はお電話を差し上げたいとおっしゃっておりましたが、夜も遅いのでお断り致しました」






「そうだな。私は構わないが、常識かもしれん」


よかった。

疑ってはないみたいだ。




「―――椎名」


「はいっ」


「帰り道、気をつけてな。私はもう、移動する」


「かしこまりました」

タクシーの中で、椎名は一礼した。



プー、プー、

電話が切れてから顔をあげる。




あとは、お嬢様を信じるだけ。