そのころ、椎名はタクシーで屋敷へ向かっていた。
額をつたう汗を拭う。
ポケットからケータイを取りだし、すぐにボタンを押した。
屋敷へ。
奥様がきっと待っている。
余計なことを考えずに、と、椎名は意識する。
ユリ子お嬢様に遣えて、こんな大きな嘘ははじめてつく。
成功するか、しないか、ではなく、
成功しなければいけない。
椎名を不安が襲う。
「椎名か?随分と遅いじゃないか」
奥様の声じゃない。
この声は・・・・・・。
椎名は一気に動揺した。
「申し訳ございません。一時見失ってしまって。ご主人様は、お仕事ではないのですか?」
「いや、構わん。それよりユリ子だ。ユリ子はどうした?」
椎名はゴクリと唾を飲み込んだ。