「今回のわがままは流石にきけません」
椎名が申し訳なさそうに言う。
それは、ユリ子にだってわかる。
だって、知らない男と一緒にいて、
そんでもって家に帰らないなんて
そんなわがまま通るはずない。
でも・・・・・・
でもね、
「私、結婚相手くらい自分で決めたいの。ずっと、お父様とお母様の言うことを聞いて、自分で言うのもなんだけど。いい子で育ってきたつもりよ。」
椎名はタイミングよく頷いて、静かにユリ子の話をきいていた。
いつも椎名はユリ子の話をじっと聞く。
今も、昔も変わらないことのひとつだ。
「ねぇ、ずっとつけてきたならわかるはずだわ!彼、悪い人ではないでしょう?」
「悪い人でなくても、」
「一世一代の恋をしたいのよ、チャンスは今しかないの。そう思わない?」
ユリ子は椎名の返事を遮ってまくし立てる。
止まらない。
「私だって、普通に恋したい。告白して、
ゴホッ
両思いの人とお付き合いからはじまってっ、
手、とか、繋いだり、
っハァ、ハァ」
やだ。
気持ち高ぶったら、発作が。
ユリ子は必死に椎名にしがみつく。
訴えたいものがある。
キスだってしたい。
それに、
え、
えっちにだって興味がある。
普通の女の子なんだから。
「落ち着いてください。薬が切れてきたみたいですよ」
途中、力が入らなくて吐息になって口にはだせなかった。
椎名は冷静に受け止めて、ユリ子に優しく言う。
「お嬢様はあの方に恋をしたのですね?」

