椎名は18歳になってすぐに佐瀬家の執事となった。
若い、執事。
それだけで屋敷は忌み嫌がるもの、若い力をよく思っていたもの、賛否両論だった。
ユリ子にとって椎名は
どんよりとした佐瀬家に通る、澄んだ一筋の風。
そんな存在だった。
当時はユリ子は15歳。
佐瀬家にきた者は、心が荒んでいく。
そう信じきっていたが、3年たった今でも
椎名の笑顔は濁りのない、透明なままだ。
権力に執着した父に、
金でなにもかもが手に入ると勘違いしている母。
そんな家族よりも椎名はユリ子にとって大事だ。
毎日のお稽古に、いい年こいて嫌だと駄々をこねたとき、
椎名はいつもユリ子のわがままを聞いてくれた。
そのたびに椎名が嘘を考えて、ふたりで演技したっけ。
だからこそ、コンビニで即興に思いつき、演技できたのだ。

