ユリ子は口を押さえつけられ、

声がでない。


必死で、もがいた。


誰!?



声を聞いた瞬間、力を抜いた。

「僕です。椎名です」

ほっとしたと同時にユリ子に苛立ちが芽生えた。


「いつからいたの?まさかずっとついてきたっていうの?」


「お嬢様、帰りますよ」


「イヤ!」

ユリ子を引っ張る椎名の手を払う。

ユリ子に遣う者。

手荒にできない。


「お嬢様・・・・・・」

「帰りたくないと、お父様に伝えて」

ユリ子はそっぽを向いて全力で抵抗する。



「僕からのお願いでもあります」


「ずるい」

ユリ子は椎名を困らせたい訳じゃない。


むしろ、椎名のことが好きだ。

椎名はユリ子がこのセリフに弱いことを知っている。