僕だって、現にいつでもやめられるのですから。





椎名は、弘人にユリ子が家出した詳細を伝えた。


「それって、お嬢様の家出に加担したってことだろ?執事としてまずくねぇか?」

弘人は怪訝そうな顔を椎名に向ける。



「お嬢様は明日お帰りにならなければなりません。そう言うお約束です」


「恭介はそのこと知ってるのか?」


「恭介とは、先ほどの方ですね?わかりかねます」


「いや、きっと知らないだろうな」

弘人は蓮山の言動から推測した。


「できればそのまま黙っていて欲しいのです」

「なんで?」

「・・・・・・」

「ユリ子ちゃんが帰らないという選択をとってもいいと?」

「違います。帰ってきていただかないと困ります」

「じゃあ、なんで?」

「あとはふたりの問題です。僕の口からよりもお嬢様から聞いた方が、恭介さんもきっと納得がいきます」

「なるほど、俺の役目はなんとなくわかったぜ。でも、いいのか?俺なんかに話して」



椎名は、すばやくその言葉に反応して弘人の顔をみた。

「なんで話してしまったんでしょうね。あなたには不思議な力があります」


「よく言われる」


「力の強さにこだわっていましたが、大切な誰かを守るにはそんな力の方が大事かもしれませんよ」



「お前、名前は?」


「お前、なんていわれたのは久しぶりです。椎名と申します。あなたは?」


「俺、弘人。今日のこと説明しながら向かう。後ろ乗って」




弘人は痛む腹部を感じながらバイクを発進させた。

空には一番星が見えはじめていた。