「お嬢様」
少し強めの声で、ユリ子を叱るように椎名は紅茶をテーブルにおく。
「椎名、お願い!」
ユリ子は椎名がユリ子に弱いことを知っている。
「駄目です」
「車でふら〜っとその辺一周・・・・・・「駄目です」
ふたりとも黙り込み、静まるユリ子の部屋。
高そうな置物は、ホコリを被ることなく輝いている。
「気晴らししたら、ちゃんとピアノの練習するから〜、椎名ぁっ」
椎名はドアノブに手をかけ、ため息をひとつ。
「今から車で外出の許可をいただいて参ります」
「椎名、大好きっ」
「帰ったらすぐ出れるように、ピアノの支度をしておいてください」
「はーい!」

