からだの重心が後ろにいき、ユリ子は落ちそうになる。

すると、ヤンキーがユリ子の手をひき、自分の腰へまわそうとひっぱった。



たしかに、そっちの方が無難だけど。


密着することに抵抗して、ユリ子は手を引っ込めようとした。


「バカ!危ないだろ?」

「あっ、は、はい」

あまりに迫力がある声。

見た目がヤンキーなだけある。


下心なんて、あるわけないか。


ユリ子は自分の考えがすこし恥ずかしいことに思えて、顔が紅潮した。



そっと、ユリ子はヤンキーに言われた通り手を回してくっついた。


肩から顔を覗かせる。


住宅街を猛スピードで走りぬけ、家々がユリ子の視界を横切っていく。



「あのっ」

ユリ子は大声で叫ぶ。

でないと風の音でかき消されてしまう。


「なに!?」

角度を少しだけこちらへ向けて、返事が聞こえた。

顎のラインがシャープだ。




「お名前を聞かせていただけるかしら?」

「聞こえない!」

「お、な、ま、え」

「ああ、名前ね!丁寧におをつけるから、」


たしかに、長いセリフは語尾が聞こえづらい。
後半はユリ子の耳に入らなかった。


「聞こえないわ!なんておっしゃったの!?」


「蓮山恭介(はすやまきょうすけ)!」

「蓮山さんね!」

「お前の名前は!?」

「まぁっ」

「お前」なんていわれたことがこのかた人生に一度ももないユリ子は驚いた。



もうすぐ赤信号に捕まりそうだからユリ子はそのときを待ち、返事をとめる。



そろそろだ。

たくさん文句をいってやろう、そう思って口を開けた。


「あのですね!あなたにお前、だなんて言われる筋合いはなくってよ。だいたい学校へいくはず、」


減速する様子がなく・・・・


「え!?なに!?」



相手にされなかった。



「もう、いいわ!」