かつて、蓮山が通っていた懐かしい道場。
「嫌々やってあの強さか」
「そんなに僻(ひが)むなよ」
「メーン!」
弘人が突然、チョップを食らわせようとするもんだから蓮山は構えて、避けた。
「剣道、懐かしいな」
蓮山は道場の入り口に目をやる。
小学校卒業するまで続けていた剣道も、最後はすこしだけ好きになれた。
きっと、師範のお陰だと思う。
師範は髭をうんと伸ばした胡散臭(うさんくさ)いお爺さんで、厳しい人。
「師範の名前、なんだっけ?」
蓮山は最後まで名前を知らなかった。
小さい頃はそんなこと知らずに済んだから。
「コラァ!山岡だ!」
「「先生!!」」
静かなところから急に声がしたからふたりは驚いた。
「俺は覚えていましたよ」
弘人が一言。
「スミマセン」
蓮山は謝罪。
フォフォと山岡先生は髭の先を触る。
懐かしい仕草だ。
「急になにしにきた?」
山岡先生の問いかけに、ふたりは目を合わせて返答に困る。
蓮山は本当に理由がない。
弘人が勝手に来たのだ。
まぁ、蓮山が勝手についてきたのだが。
山岡先生は戸惑うふたりに、にやりと笑う。
「挨拶にきたわけではなかろう」
「コイツと、勝負しにきました」
「は?」
弘人の突然の告白に蓮山は動きが止まる。

