名前で呼ばれて嬉しいから?
蓮山さんもそう思ってる?
ユリ子は高鳴る想いを隠して聞いた。
「族の中で呼び合うのは名前だから。名字で呼ぶなよ」
「あ。なるほど」
ユリ子がガッカリしていると蓮山は紙袋を差し出す。
「なんですか?コレ」
「特攻服」
「とっこー服?」
「そ。レディースに頼んで作ってもらったんだよ」
「レディース?」
「そう。簡単に言えば女だらけの暴走族ってこと」
「敵ではないんですか?」
「まぁ、訳ありで・・・・・・まぁ!それ着れば安全だから」
蓮山が言葉を濁す。
ユリ子はなにか引っかかるのを感じた。
「安全、ですか」
ユリ子は紙袋の中を覗く。
きらびやかな洋服。
「ユリ子のやらしい言葉で言いかえれば、夜のお衣装」
「もう!怒るわよ!」
「もう怒ってんじゃん。
「そうそう、もうひとつの理由・・・・・・」
蓮山がユリ子の耳元で思い出したようにささやく。
「じゃあ、また後で」
笑顔でトイレに消えていく蓮山。
「はい。また後で」
立ち尽くすユリ子。
この人はどうして、乙女心がわかっちゃうんだろう。
「───ユリ子に名前で呼んで欲しいから」
こんなセリフがさらりと言えちゃうなんて。
きっと、とてもモテる人。
ユリ子はそう感じた。

