「入って!」

「どう?まだ痛いって?」

若月先生は、靴を脱ぎ捨てるとそのまま恭平の待つ部屋へ行った。

「動けますか?」

恭平は、痛みに耐えながら起きようとしていた。

「辛かったら無理しなくていいですよ。少し経ったらまた治まるかも知れません」

恭平を見ながら話しかけ、あたしの方に振り向いて。

「入院の準備は出来てる?」

と聞いてきた。

「さっき、その話ししてて、そしたら突然お腹痛いって……入院するの?」

「……もうさせちゃいましょう。この前の部屋、そのままとってあるし。お母さんに連絡出来ますか?」

「あたし、母さんの仕事先の番号知らない」

「じゃ、とりあえず置き手紙して、今のうちに及川さんを病院に運んじゃいましょう」

「はい」

恭平を見ると、また痛みが治まったみたいで少しずつ起きようとしていた。

二人で抱えて恭平を車に乗せた。

若月先生は、アクセルを踏んで車を走らせた。

「大丈夫?お腹痛くない?」

「今は平気。樹理、手かしてて」

「うん」

あたしは恭平の手を両手でしっかり握って放さなかった。


恭平を病院に送ったら家に戻って、入院の用意もしなくちゃ。


母さん、あの置き手紙でわかるかなぁ。


あたしの頭は、考えることでいっぱいだった。

「もうすぐ着くよ」

若月先生が言った。

車は、病院の裏に止められた。

車のドアを開けると、冬の残りの冷気と春の暖かさが、あたし達を包み込んだ。

「歩けそうですか?」

若月先生が恭平を覗き込みながら聞く。

「ええ、今のうちなら、何とか行けそうです」

「じゃ、行っちゃいましょう。そんなに、距離はないですから」

そう言って、若月先生は恭平に肩をかした。

休み休み歩いて、やっと部屋に入り恭平をベッドに横にさせる。

「少し休んでて下さい。入院の手続きもしなくてはいけないので、ちょっと樹理ちゃんお借りしますね。何かあったら遠慮なくナースコール押して下さい。及川さん専属の看護士がすぐ来ますから」