三月、桃の花が満開になった。

とうとう出産月、予定日は十日。

最近、家のもの達はそわそわして落ち着かない。

母さんは、夕方からのパートは一切断って、日中働けるように移動をしてくれた。

夕方、あたしが学校へ行く時間と、恭平が仕事して帰って来るまでの間、赤ちゃんを見てもらうために。

「そろそろ、入院に必用な物確認しておくか、本どこにおいた?」

あたし達の愛読書となった、出産の本を持ってきて調べる。

「え~とねぇ。寝間着、カーディガン、腹巻き、腹帯、授乳用ブラジャー、母乳パッド、バスタオル、タオル、ティッシュペーパー、脱脂綿、母子健康手帳、診察カード、健康保険証、印鑑、入院証書、洗顔道具一式、スリッパ……あとは、湯飲みだとか、お箸、時計とか日常的な物、あ、赤ちゃんのために肌着、長下着、おむつ、おむつカバー、靴下、ベビードレス、おくるみ、だってさ」

 書いてあることを、とりあえず一通り読んだ。

「わけわかんねぇなぁ。ベビー用品なんて見に行ったことないもんな。とりあえず、分かる物から用意してくか。樹理、俺ん家行って、持ってこれる物あったら運んじゃおうぜ」

「家にあるの使えばいいじゃん」

恭平は、先週から服部家に厄介になっていた。

「悪いだろ」

「悪かないよ。そんなことで遠慮してどうすんのよ。母さん聞いたら怒るよ」

「そうか?……今日二日だろ?あと三、四、五、六……あと、八日で出産だもんな、なんか早いな」

「すごい一年だったよね。胎教には悪かったんじゃない?」

あたしは、恭平のお腹をさすりながら言う。

「大丈夫だよ。そんな、やわじゃねーって」

さすってたお腹が、突然ビクッって動いた。

「あ、赤ちゃん、今蹴ったのかなぁ」

そぅ言いながら、恭平の顔を覗き込む。

でも恭平は笑っていなかった。

「どうしたの?」

「ってぇ……」


え?


恭平はお腹を抱えて崩れる。

「やだっ。大丈夫?お腹痛いの?ハンパじゃない痛さ?」