栗きんとん(恭平が好きなの)。

黒豆(母さんが好きなの)。

紅白のカマボコ(あたしが好きなの)。

そして、メインのお餅(三人とも大好きらしい)。

お酒はなし。

恭平以外飲む人いないんだこの家。恭平も今は飲めないし、だから、あえて御屠蘇も用意しなかった。

母さんの雑煮も作り終わって、あたし達はテーブルに着いた。

「お待たせしましたね、恭平さん。じゃ、食べましょうか」

新年の挨拶を簡単にすませると、恭平は早速栗きんとんに手を出す。

「ホントに好きなんだね」

あたしは、幸せそうに食べている恭平を見てつくづく思った。

「おぅよ。この栗ときんとんの、甘さのバランスの良いことといったら」


そんなもんかな。


あたしは、箸を置いて母さんを見た。

「母さん、ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど」

あたしは、あたしなりに悩んで、考えたことを話そうと思った。


それは……。


「あたし、学校辞めて働きたいの」

「えっ?」

二人の動きが止まった。

「あのね、学校を辞めて、アルバイトでも何でもいいから、働きたいの」

「理由は?」

「……お金が必要だから」

「海外にでも、行くつもりかい?」
「ううん。そうじゃなくて」

そぅ言って、あたしは部屋に行って、本を持ってくる。

「あのね、ここのページなんだけど」

あたしは、印しをつけておいた、出産費用のページを開いた。

「助産院で、二十五万~三十万くらいかかるのね。でね、会社とか退職するじゃない、だけどね、六ヶ月以内に出産した時は、出産手当金って言うのが支給されるんだって、でも、恭平の場合は、そんなものもらえるわけないんだから、もっとかかるかも知れないし、個室にすると一日、一万とか取られるんだって、さらに日当たりのいい方とか、そういうので、さらにアップするらしいよ。だから、今のままじゃ、出産しようにも、お金がなくて出産出来なくなるでしょ?恭平にいくらかかるか、全くわかんないんだもん」

「俺のために、そこまで考えてたのか」