七月。

中旬、本日も快晴。


生徒には、期末テストなんていう、実力テストが待ってるんだけど、そんなものより、恐ろしい出来事が先にやってきた。

その日も、とりあえず何事もなく過ぎようとしていた。

六時限目の眠い眠い授業も終わりに近づき、恭平が男子生徒に教科書を読ませて終わらせようとしていた。

「おーい、ここら辺、テスト出るからなぁ。寝てる奴知らねぇぞぉ。じゃあ、最後教科書開いて、出席番号十九番『水と蒸発』について読……ん……」

恭平は、言葉を全部言い終わらないうちにドサッと、教壇に倒れた。

一瞬、何が起こったのか、誰も分からなかった。

誰も動く人もいなかった。

教壇を見つめていた。

その二秒後。

「ヤダッ。恭……先生!先生っ!」
 
クラスのみんなが今度は一斉に恭平の所へ駆け寄った。

あたしの足は地面にくっついているかのように、ピクリとも動かすことが出来ないでいた。

「保健室つれてけよ!」

「動かしていいのかよ!」

「安西先生呼んだほうが早いよ!」

みんな、口々に言う。


恭平……うそでしょ?


教壇につまずいただけでしょ?


早く目覚ましてよ。


早くっ!


その時、突然教室のドアが開いた。

「一体どうしたんだっ。うるさくて授業ができんだろっ。及川先生はどうしたんだっ!」

隣のクラスで授業をしていた、国語担当の上条先生が怒鳴って入って来た。

「先生が倒れたんだよっ」

一人の男子生徒が答える。

上条先生は、恭平が倒れているのを見つけると、そばへ駆け寄って、恭平に向かって怒鳴った。

震えているあたしの側に祐子がさりげなく近づいて「大丈夫だよ、平気だよ」と、手を握ってくれた。

「及川先生っ!及川先生っ!聞こえますか?及川さん!誰かっ、隣の教室行って、自習してるように言って来い!保健委員!安西先生に及川先生が倒れた事言って来い!男子手伝え!及川先生運ぶぞっ!」

保健委員のあたしは、上条先生の声で我に返り、祐子と一緒に教室を飛び出し、保健校医の安西先生の所までダッシュしていた。

男子生徒数人と上条先生が、恭平を保健室に運んだ。

廊下には、ほとんどの生徒が恭平を見送っていた。