「失礼しまぁす。せいなっていーまぁす。よろしくぅ」

真ん中の席に腰をおろして、とりあえずお客さんの特徴をつかむために、にこやかに一回り見る。

その笑顔が、途中で消えて、あたしは一人の男の人で動きが止まった。

「き、きょうへいっっ!」

恭平は、化粧しているあたしに、はじめ気づかなかったみたいだったけど、二・三秒後に、すぐ分かったみたいで。

「何やってんだバカッ」

怒鳴られた。

「恭平、怒んないでよ。黙ってたのは悪かったけど、あたしだって、好きでやってたわけじゃないんだから。ねぇ、聞いてるの?恭平だって何なのよ。恭平は、妊娠してるんだよ、それなのに、お酒飲んでいいと思ってんの?」

あたしと恭平は、アパートに帰って来ていた。

というよりも、あの後、恭平があたしの手首をつかんで、無理やりアパートまで連れて帰って来た、という感じだった。

「お前はあれか?金が欲しいと、ああいう所で働けばいいと思ってんのか?」

恭平は、あたしに背を向けて話した。

「別に、あそこじゃなくてもよかったよ。でも、知り合いのお店で働いたほうが、気分的にラクじゃん。給料だってそれなりにもらえるし」

「コンビニのバイトじゃ、給料は不服か?あそこが、どぅいう所かお前は分かってたんだな、分かって、あえてあそこに行ったんだな」

「恭平……。何をそんなに怒ってんの?」

「常識ぐらいあると思ってたけどな」

ムカッ。

「それ、どーいう意味?お金が必要だったからバイトしたんでしょ?恭平にばかり迷惑かけられないと思ったから、だから、友達に頼んでバイトしたんじゃない。内緒でバイト始めたのは誤るけど、それがいけないの?常識の問題持ち出すんだったら、恭平のほうが常識ないんじゃない?お酒なんか飲んで!みのりさん、皆にたくさん飲ませる気だったんだよ。赤ちゃん死んじゃったらどうすんのよっ。何のためにあたしがバイトしたのか、分かんないじゃないっ。大体、お酒なんて飲もうとする方がおかしいよ、それこそ非常識なんじゃないっ?」

あたしは、恭平の背中に言葉をぶつけた。