美加ちゃんの髪の毛は教室を出るときは、可愛く立て巻きのカールだったのに、今はペシャンコの水浸しになっていた。

あたしは、慌てて掃除を始めた。

「ごめん!もうちょい。先帰っててもいーよ」

恭平とふざけていたから、そんなに進んではいなかった。

「あ、服部もういいぞ。休み時間も終わりだ。ちゃんと口紅落とせよ」

ティッシュを突き出しながら恭平が言った。


先生風ふかしちゃって。


あ、先生だっけ。


「及川先生」

メガネをキラリと光らせ、祐子もティッシュペーパーを突き出しながら言う。

「先生も、ちゃんと次の授業までに、落として下さいね、不気味だから」


あちゃあ。


よく見ると、さっき恭平とキスした時の後がついてるよぉ。


「わりぃ、サンキュな」


サンキュなって……。


祐子だったからよかったものの、他の人だったらと思うと、フゥと、ひとつため息がでた。

あたしと、恭平が付き合ってるのを知っているのは、学校の中では祐子以外に誰も知らない。

なにしろ祐子が恭平を引き合わせてくれたんだもんね。


「あんた達、二人っきりにしてあげるとこれだもんね。少しは自粛しなさいよ。学校なんだから」

祐子が教室を出た途端に説教を始めた。

「ごめん。だって、嬉しかったんだもん。ここ二・三日、二人っきりで会えることなんてなかったし、ごめん気をつけるから。でも、美加ちゃんは気づいてなかったよ」

教室に向かいながら、少し前を歩く美加ちゃんを見ながら、小声で祐子に話した。

「視力悪いからね、美加は。今度コンタクト入れるって言ってたよ」
 

ふーん。


祐子の話しを半分聞き、残り半分、祐子に指摘された時の恭平のキョトンとした顔を思い出して、あたしは、恭平を可愛いと思っていた。



そして、その時はこれから起きる出来事を、知る由もなかった。