「妊娠のことは言えないけど。退職のことはな」

「なにも、今日言わなくたって。この前、恭平まだ辞めるつもりないって……」

あたしの胸の中で、モヤモヤ感が広がっていく。

「後任のこととかさ、あるだろ。早めに対処しとかないとな」

「あたし、まだ妊娠のこと母さんに話してないんだよ」

「ん、それもあるな。でも、これから学校で何か起きたら、どう対処すればいいんだ?若月先生もいなくて、まして学校で樹理に助け呼ぶなんて事出来ないだろ?」

「あたしが、口出すことじゃないんだね」

「なに言ってんだよ。これからのこと、その都度ちゃんと考えて生活していこうって、この前話しあったろ?」

「うん」

「俺が言ってること分かるよな」

「うん、分かるよ……」

恭平は、あたしの顔を挟んで言った。

「どうかしたのか?」

「……恭平」

「あん?」

「あたし、今日学校休んでもいい?」

恭平は、あたしの両方のほっぺたをつねりながら。

「あん?担任を前にしてズル休みを決行するなんて、ふてぇやろーだなぁ。夏休みの登校日は授業の一環です、認めません」

言いながら、グリグリ回した。


 
 ―放課後―

放課後といっても、登校日だから、まだ午前中なんだ。

「ねぇ、樹理」

祐子が話しかけてきた。

久しぶりに会った祐子は、どこに行ってたのか知らないけど、焼けていた。

「なに?」

「及川先生、ちょっと感じ変わった?」


ドキィィッッッ。


め、めざといっ!


「そ、そう?」

「夏休み中ずっと一緒に遊んでるんでしょ?」

「ずっとじゃないよ。会える時だけだよ、及川先生けっこう学校に行く用事あるみたいだし」

なんて、ほとんど毎日のように会ってるけど。

アハハ。

なんて、引きつり笑いをしながら、その場を誤魔化した。

さすがに妊娠のことは、たとえ祐子でも言えない。