「何か、飲みものねぇ?それと、アンドーナツ食いてぇんだけど」


アンドーナツ?


「恭平、悪阻で気持ち悪いんじゃないの?」

「そーだよ」

「なんで、アンドーナツ食べたいのよ」

「ここ暫くずっと食いたいんだけど、ドーナツ」

「だから、気持ち悪いんじゃないの?」

「悪阻で気持ち悪いけど、違うんだよ、気持ち悪さが。例えば、悪阻の気持ち悪さはこっち」

と言って、恭平は右手を右側に移動させる。

「で、車酔いとかで気持ち悪いのはこっち」

と言って、今度は右手をずうっと左側に移動させる。

「な?今俺が気持ち悪いのはこっちの悪阻の気持ち悪さで、これは、ドーナツ食うことに影響されない気持ち悪さなんだよ。一番の天敵は飯の炊ける匂いだな」


わけわかんない。


気持ち悪いのに、甘いドーナツは食べれるの?


普通妊娠したらすっぱい物食べたいとかよく聞くのに。


あたしは、冷蔵庫の中をガサガサと探してみる。

「飲み物も何にもないよー。学校帰り何か買ってこようか?」

「そーだなぁ。適当に買ってきといて」

あたしは、恭平の所まで戻って来て。

「ちょっとこっち向いて。そんなに目立ってないけど、でも、ぶつからないように気をつけてね」

あたしは、恭平のお腹をポンポンと軽くたたいた。

「分かってるって。にしても、このズボンもきつくなるんだろうなぁ」

「大きいのにしていかないとね……いっそうのこと、マタニティーにしちゃえば?」

あたしは、想像してクスッと笑う。

「……部屋着なら楽かもな」

恭平が真顔で答える。

「真顔で冗談言わないで」

「お前が言ってきたんだろ」

「でも、ホントに服も考えなきゃね」

「あぁ」

「大変!恭平、もぅ出ないと遅刻しちゃうよ。学食で何か栄養のつく物食べて」

「……今日時間あったら学校側に言ってくるつもりだから、もしかしたら、ちょっと遅くなるかもしれない」

「言うって、まさか、妊娠のこと?」

あたしの動きが止まる。