八月中旬、猛暑、夏休み。

恭平は、ここ暫く悪阻に侵されていた。

「先生、今日も飯の匂い嗅いだだけで、気持ち悪くて吐いてんですよ。毎日毎日こんなんで、俺、何かおかしいんじゃないですか?」

「昨日も言ったとおり、悪阻ですよ」

受話器口から、若月先生の声が聞こえてくる。

「ホントですか?だって、毎日ですよ、ありえないですよ」

「そういうものなんです。個人差もありますけどね、大丈夫ですよ、それよりご飯食べれていますか?」

「暑くてそんな気になりませんよ」

「そうですか、では、食べたい時に好きな物を食べるようにしてみて下さい。無理に三度三度食事を取らなくても結構ですよ。ストレスを溜めないようにするのが一番ですから」

「はぁ」

「もぅ三ヶ月に入っているんですから、悪阻もひどい時期なんです。動けるようなら散歩でもして気分転換したり、何もしないで、寝ていてもいいですから。精神の安定を優先させて下さい。あと、一ヶ月もすれば悪阻もなくなりますよ。いいですか?患者さんが待っているので切りますよ。何かありましたら、また連絡して下さい」

恭平は、受話器を置くと、樹理の方を向いた。

「若月先生、なんだって?」

「ん、悪阻だって、この最悪な状態があと一ヶ月続くらしいぞ。よくこんな状態に世の妊婦は耐えてるな……。あ~何とかなんねぇかなぁ」

恭平が、ヨッコラショっとあたしの隣に座る。

「だから言ったじゃない。悪阻だって、毎日毎日若月先生に電話してたら迷惑だよ」

「だって、すっごいんだぞ。毎日毎日、朝、起きるたびに吐きたくなって、朝が憂鬱で、飯作ろうと思っても気持ち悪くなって、コロッケ食いたくなっても、気持ち悪くなって」

恭平は、お新香をボリッと噛んだ。


コロッケ食べなきゃいいじゃん。


「要するに、あたしが作ればいいわけね?」

あたしは、立って台所へ行こうとした。