「いえいえ、大丈夫ですよ。樹理ちゃんが驚かれるのは当然だと思いますよ。私だって、この現実をどう受け止めればいいのか悩んでますから」

恭平は、椅子に座りながら本題に入った。

「それでですね」

チラっとあたしを見る。

「恭平は、無事に赤ちゃんを産むことができるの?」

あたしは、若月先生にちゃんと向き合って聞いた。

「もし、及川さんが赤ちゃんを産むと考えているのなら、それに対して私は全力を尽くすまでです。女性の人だって、無事に産まれるようにって思っていても、早産だったり逆子になってしまったり、いろんなパターンの危険性があるんだ。だから、ただ無事に産みたい。って思うことは女性でも男性でもその点は同じじゃないかな」

「でも、恭平は男だよ」

「うん」

若月先生は一呼吸おくと。

「樹理ちゃんは、どうなってもらいたいの?」

と質問してきた。

「……あたし、よくわかんない」

あたしは、うつむいてしまった。

「何も恭平が産まなくたってって思ってる。でも、恭平とあたしの子供だって思ったら、この世から消しちゃうのは……って、気持ちもあって……。だから、どうすればいいのかわかんなくなってきてる。恭平も、赤ちゃんも無事に産めるって若月先生がちゃんと言ってくれないと、あたし」

若月先生は、あたしに向かってきっぱり言い放った。

「樹理ちゃん、先の見えないものに立ち向かって行く事に対して、私は、簡単に大丈夫だとも、無事に産めるとも言えません。先ほども言いましたが、全力を尽くすだけです」

「若月先生は、ち、中絶、勧めたりしないの?」

「私は……勧めません。確かに凄い事に挑むことになりますが、患者の意思を優先させたいと思って私は仕事をしています。それに対して私は、努力をするだけです。樹理ちゃんじゃないけど、せっかく授かった命を誕生させないのは私も嫌いなんですよ」

若月先生は、あたしを見つめながら話してくれた。

あたしの気持ちが決まった。

「恭平、若月先生。あたしも赤ちゃんがみたい」

恭平が、あたしを引き寄せて頭をなでる。

若月先生も微笑んでくれた。

「それでは、確認からですけど、もちろん世間には秘密のほうがいいですよね」

「はい」