男が前を歩き、その後ろをわたしがついていく。互いに無言のまま、側面にある縄のはしごをのぼる。やっと着くと思ったとき、手が上から出てきた。おそらく前をのぼっていた海賊の男の手だろうと思い、その手を掴んだ。
が、その瞬間勢いよく引っ張られ、わたしは甲板(かんぱん)にうつ伏せ状態に倒れこんだ。
何がなんだか分からないまま、上半身だけ起き上がると、目の前には、誘った張本人が冷笑を浮かべながら立ちはだかっていて、わたし達の周りには、若い男達が、剣を片手に鋭い目付きでわたしを見ていた。
すると、どこからか、
「おい、コヤカ。誰だその女。お頭の了承得てねぇだろ」
という声。コヤカと呼ばれる立ちはだかっている男は、その声には動じず、
「まぁ見てみな。こいつの髪色と瞳」
そう言って、横へ歩を数歩ずらした。
「なるほど、オッドアイか」
「しかも、翠玉が入ってる」
「お頭好きだよな、この色」
途端に飛び交う会話。
「おいじゃあどうする?お頭は今、手がはなせねぇ」
1人の男がコヤカに問いかける。
「まぁ、そうだな。部屋、空いてる部屋に連れていって、見張りをつけときゃいいだろ。お頭には俺が説明しとく」
(ん?あれ?おかしい)
「ねぇ、あの、ちょっと待って。少し見るだけって……」
(言っただけなんですが……)
「あ゛?んなの嘘に決まってんだろ。簡単に信じやがって、ひっかかる方が悪いんだろ」
…………
(え、何これ。これって、ゆ、誘拐?まさかこれは、幾度となく聞いてきた、誘拐な訳?
け、携帯は!?)
探してみるが、海までわざわざ持ってくる訳はなく希望は書き消される。
(誰か気づいてーーーー!!)