一体何だったんだろう?
不思議に思いはしたが今はバイト中だし
私は再び仕事に戻った。



そして壁掛けの鳩時計が10時を指す音楽を鳴らす



店のシャッターはウィーンと機会的な音を立てながら下へと降りていく。
私も制服を着替え帰宅準備を始めた。
着替え終わってからもう一度店内へ戻りショーウィンドーとカウンターを軽く水拭きしてそれから掃除機で店内に敷き詰められた赤いカーペットの上を掃除する。
その間スピカさんは今日の売り上げの計算やらなんやらをしにスタッフスームに入っている。
さっきまで煌びやかな光を放っていたシャンデリアは光を失い
変わりに青白い光が店内を照らしている。
そうなってしまうと高級感溢れる清潔な店内は一転不気味なものへと変身してしまうのだ。
しかし私はこの不気味に変身した部屋・・・結構嫌いではない。
光が有る限り輝きを放ち続ける宝石たちは営業中とはまた違う一面を見せてくれる。

この血色のルビーも
青ざめたサファイアも
みんな素敵――――・・・

「何か気に入ったものでもあるのか?」

突然聞こえた声に私は驚いて後ろを振り向く
そこには先ほどの少年・・・いやこの店のオーナー(・・・・)が立っていた。
いくら今の店の雰囲気が嫌いで無いと言っても怖くない訳では無い
大体私は幽霊とか妖怪とかそう言った非現実的なものは苦手だ。
そんな事誰であれ人に知られたくない
私は平常を装った

「いえ、別に・・・」

ふうん、と一言。
オーナーは無言で私を見つめる
私はとりあえず笑顔を作った

「自己紹介まだだったな。俺は、美兎ヒカル。歳近いし名前で呼んで」

このルックスでこの名前とは・・・
本当、世の中はよく出来ている。
私が一人で感心しているとオーナー、ヒカルは「君は?」と私にも自己紹介を催促してきた。
履歴書でも何でも見れば解るんだろうに
面倒臭い。
それでもヒカルは私の上司だ
こんな下らない事でクビとか言われたら、困りはしないけど腹が立つ。
だからとりあえず自己紹介くらいしとうこうと思って口を開きかけると

「そんな事でクビにしたりするかよ。人手も足りてないのに・・・」

って・・・また・・・?