トーナメント方式で始まる、中体連では、一度の負けが、中学校生活最後の試合になってしまう。

当然、相手も必死にかかってくるし、こちらも格下が相手だろうが、必死に戦う。

俺の住む町には、運動場があり、そこには、芝グラウンドが多数あった。年によって違うが、今回の中体連は、この芝グラウンドを全面的に使用できる様で、俺達は芝の感覚を感じながら、アップを開始した…。

気温は軽く20度を超える炎天下の中、俺達はチームジャンバーでもある、黒いジャンバーを脱ぐことなく、アップ開始する。

いつもの通り、半面のグラウンドを、自分の体調にあったペースで、身体を慣らしつつ走る。その様子は、強豪のチームが醸し出す不思議な威圧感を相手チームに与えるのだ。

他のチームの連中も、俺達のなんでもないアップを、遠目に視線を送っている。

試合はすでに始まっているのだ。

柔軟を終えた俺達は、軽いボールタッチを開始し、いつもとは違う芝の感覚を確かめつつ、今回の試合相手の事を考えるんだ。

弱小とまでは言わないが、対して強くはない相手。だが、基本に忠実で、スーパーエースは存在しないが、チームワークは抜群だと言う噂は耳にする…。

こういうチームが以外と厄介なのだ。サッカーをよく知っている…一点が試合を一転させる展開になる可能性が高い。

先に点を取ったチームが、この試合の主導権を取るのだ。

時間は刻々と過ぎ、試合前のミーティングが始まった。

「一回戦の相手は、決して強いチームじゃない。だが、俺達は相手に手加減出来るほど、強いチームじゃない事を忘れるな。いつも通り、自分たちの力を過信せず、試合に臨んでほしい」

菊池先生の言葉に俺達は、元気よく返事を返す。言われなくても解っている事だが、繰り返し頭に植え付ける事で、無意識の油断を消す為に…。

「中盤はきちんとプレッシャーをかけ、ボールを相手に持たせない事。後、ディフェンスラインは、フラットスリーのポジショニングをきちんと確認しあって、オフサイドトラップのミスだけは注意する事…それと春樹は、きちんと周りをよく見とく事だ。お前はFWだが、ゲームが始まったら、キャプテンであるお前が監督だ。的確な指示を出せ」