Leave a prove

「神崎君の動きが硬い？」

「あぁ。アイツ自身は気付いていない様だがな。緊張感のあるプレーの中に余裕がない様に見える。車のブレーキも遊びがあるからスムーズに働くものなのさ…サッカーも同じで、集中している中で、周りの状況を確認できるぐらいの余裕が必要なんだよ」

「それって…伝えなくて良かったんですか？」

「言って治る様なら言うさ。でも春貴の場合は自分でも気づかないほどの緊張感の中に居る…自覚がないのなら、自分の中で余裕を見つけるしかないのさ」

監督とは選手の個性を見抜かないといけない役職。試合のデータを管理するのがマネージャーの仕事なら、監督は戦術の良し悪しと、選手の調子を冷静に判断するのが仕事だ。

すっとボケてそうでしっかり見ているあたり、この男もタダ者ではないのかもしれない。

「アイツ等の目標の通過点であるこの試合だが、相手の力も全国レベルであるのは俺が見た限り間違いないだろう。後半戦が楽しみだな」

１サッカーファンとして楽しみであると菊池は思う。自分が育てた選手たちの活躍を見るのが楽しくない訳がない。

願わくばこの試合が通過点であって欲しい。互いに夢をもって頑張ってきた両チームも、願いを叶える事が出来るのは一チームのみ…。

監督として、毅然とした態度で愛すべき子供達を見守ろう。菊池の楽しげな表情からはそんな心情が見て取れるようだった。




「はぁ…サッカーの試合ってすごいね」

ハームタイムに入った事で、真紀の中にあった緊張が少し途切れたのか、盛大なため息を漏らしていた。

「そうね。こんなに真剣に見たのは私も始めてよ…まるでケンカの様な光景だったわね」

そう言ったサクラの言葉には、先ほどの光景を見た感想でもあった。春貴が抜き去った様に見えたのにも関わらず、長澤が故意のファールで春貴を吹き飛ばした光景。

盛大に吹き飛んで見せた春貴は、心底痛そうな表情を見せつつも長澤を睨みつけ、差し出す手を払いのけ、自分で立ち上がっていた。

その姿を見た時は、真紀やサクラも驚きの声をあげたものだ。