俺が現状を理解した時は、すでに笛が鳴らされた後で、左足に鈍い痛みを感じた。主審は急ぎ足で長澤の元に駆けつけると、注意を言っていた。

やられた…。長澤は瞬時の判断で、俺の服を掴み、軸足を払いのけたのだ。明らかにわざとファールを仕掛けてきた。

おそらく主審には服を掴んだところは見えていない。フェイントに引っ掛かり、身体が当たったぐらいにしか感じていないだろう…。

それぐらいうまいファールだった。近くで見ていた奴じゃないと、今のファールは故意だと気付かなかったはずだ。

長澤は主審の注意を聞いた後、俺の元に近づき俺に手を差し伸べてきた。

「悪かったな…」

言葉では謝っているものの、手段は選ばないと俺に言っている様に見えた。何となくそんな表情をしている。

「別に…真剣勝負だからな」

ファールも技術だ。一歩間違えれば、一発レッドという展開もある。守るためには手段など選んでいられないのがサッカーだ。

俺は長澤の腕を払いのけると、自力で立ち上がる。正直軸足に若干の違和感を感じる痛みだ。

削られたばかりなので、痛むのは当然だ。今の段階では、尾を引く痛みかどうかの判断はしにくい…。俺は脚の状態を確かめながら、フリーキックを打つ為に、ボールを設置した。

長澤に勢いを削がれたが、これはチャンスだ。距離は25mぐらいあるが、直接狙うには悪くない場所だから。

主審に壁の位置を遠ざけてもらいながら、正確に狙いを定める。主審の笛の音を聞いた後、俺は狙い澄ましてシュートを打つ。

俺の蹴ったボールは、綺麗な放物線を描きながら、明後日の方向に飛んで行った…。