皆がバタバタという音の方を恐る恐る見てみると、
「教えてよ!…教えなさいよ!」
桃子が必死な顔で近づいてきました。
そして肩を上下させながら男の肩を掴み、
「教えて、話を聞かせて…」
と言いました。
男は目を疑いましたがなんとか、
「…わかった」
と頷きました。
男が何から話そうかと考えていると、おじいさんが何の空気を察知したのか、
「…よし、わしから話そう」
と横から割り込んできました。
「―あれは60年位前の事だったかのぉ。ふふっ、あの頃はわしもばあさんもハジケとったわい…」
と感慨深く思い出を語り始めました。
時には涙し、時には脱線しながらおじいさんは独り芝居を演じきりました。
前に話した内容と同じなのに何故か3時間もかかりました。
その間皆は静かに聞いてあげました。

