転んだら死神が微笑んだ

わたしは、店員さんにおじぎをして車のほうに、乗り込もうとした。

そのとき、大きな声が後ろから聞こえてきた。


男の人の声「ガッハッハッハ!そんなに心配しなくて大丈夫ですよ。これから、全部キャッシュバックされるんですから。」

なんか、いかにもって感じの偉そうな格好をしたおじさんだった。

横には黒い車が止まっていて、周りに女の人や男の人がいる。

その中の一人のおじさんが、口を開いた。

なんかさえない感じのおじさんだ。ひょろひょろしてるっていうか、うちのお父さんを20倍くらいダメにした感じ。

ひょろひょろの男「でも、まだ開発途中なんですよ。それに悪いですって。」

いかにもな男「何を遠慮しておられるんですか?これは、お礼のようなモンですよ。それに、娘さんや奥さんにいい物をプレゼントすれば、あなたの株もうなぎのぼりですよ。」

ひょろひょろの男「うちの家庭は、ずっと質素で貧しい生活をしておりますから、いきなりこんなにしてもらうと、なんか落ち着かないんですよね。」

すごく、わかるよ、おじさんの気持ち。

だって、まさにわたしもそんな感じなんだもん。

わたしは知春さんのほうを見た。

知春「何?」

車に両肘をついて眺めていた知春さんが、不思議そうにわたしを見返した。

あかり「いいえ。」

知春「あの男の人、オレ知ってるよ。あの声の大きい人ね。」

あかり「へぇ〜、そうなんですか?」

知春「親父の出席するパーティーとかで、何回か見かけたことある。政財界でも有名な人間でね。国にも大きな影響力を持っているらしい。名前は〜、確か子安 賢一郎。」

あかり「すごい人なんですね。」

知春「う〜ん。どうなんだろう?あんま、興味ないしね。」

そう言うと、知春さんは見飽きたかというように、クルッっと回転して運転席の方に行ってしまった。

わたしも、それにならうかのように助手席に乗り込もうと、開かれたドアに手をかけた。