『塚原、良いカフェ―を見つけたんだ。今夜どうかな』
塚原司は同僚の清水に誘われて、渋々そのカフェーへ足を運んだのだった。
塚原に比べて、清水は流行り物をいつも身につけている洒落た男だった。
塚原は、警察稼業に流行りはいらぬと頑なな男だったし、てんで流行と云うものに興味がなかった。だから塚原は洋酒喫茶などという気取った所に行くのは始めてだったのだ。
どう振る舞って良いのかもわからない。
女中達に野暮ったいと馬鹿にされるのではないか。
塚原は決して醜男という訳ではなかった。醜男どころか、眼を隠す髪を櫛けずり、髭さえ整えれば大層な美形であった。二重の漆黒の瞳も大変涼しげで、色も白い。
それをぼさりとしている物だから、清水も周りの者も勿体ない勿体無いと常日頃から吹いていた。

洒落たウッドのドアーを押しあけるとフロアーへ続く大きな階段があり、店の床には至る所まで上等の赤い絨毯が敷かれていた。
天井に吊された大仰なシャンデリアがキラキラと光り、二人の足下に小さな影を落とす。
中には何人もの御女中とソファに腰掛ける客達があった。
『あらぁ、清水様ぁ!』
ウェイトレスが甘い声をあげて清水の腕を掴む。