『そろそろヒット作書いてもらわないと……』

「わかってますよ」

『本出すだけじゃダメなんだよ?ヒットさせてもらわないと……』

「いつだってそのつもりですけど」



ガタン!ガタン!



 舗装されていない山道を俺は携帯片手にオンボロの車を走らせる。

うるさい担当編集者の小言をBGMにね。

俺はノンフィクション作家の香月尚人(かづきなおと)。

事実に基づいた作品を世に送り出している。

もっとも、売れたのは最初の1冊だけ。

後は鳴かず飛ばずで、こうして担当からぶちぶち言われる毎日だ。



『大体今どこにいるの』

「山」

『山?!ハイキングでもしてんの?!』



あからさまに嫌みな口調で声を荒げる。

そんなに大声出さなくても聞こえてるって。



「違いますよ、取材です。取材」

『取材って何の?』

「吸血鬼です」




『……』




沈黙。




まぁ、そうだろうね。




「今ネットで噂になってるんですよ。山奥に吸血鬼が住んでる洋館があるって」

『あのさぁ、そんなの信じてたらキリないよ?』

「これは信憑性ありますから。ヒットさせるなら話題性のある題材がいいじゃないですか」




そう言いながら俺は空に目をやった。

木々の隙間から見える空は灰色を通り越して真っ黒だった。

これは一雨来そうだな……。




担当は呆れながらも俺への小言を続けた。

俺もそのBGMを消さなかった。



ザー……。



雨はすぐに降り出した。

こんな山奥で、道もなく、雨も降って、辺りは暗く視界も悪かった。




いい雰囲気じゃないか。



俺は何か確信めいた物を感じて笑みをこぼした。