いつも通り近くのスーパーで買ったリンゴが入った袋を下げて病院へ。


すっかり顔見知りになったナースたちに挨拶しながら、ナミの病室に向かう。


あともう少しと言うところで、金髪でサングラスをかけて真っ黒な服を着た男とすれ違った。


「―――――……。」


ふんわりとした香水の匂いと、芸能人みたいな雰囲気に俺は思わず二度見してしまった。


「お、クオ」


名前を呼ばれて振り向けば、点滴を右腕に差したナミの姿が。


「なにしてんの?」


「え、いや……」


振り向けばもう金髪男はいない。


「なんでもない…。あ、今日はリンゴ買ってきた!」


「さんきゅ。でも、包丁あるかなぁ」


「ナミなら丸かじりするだろ?」


「しねぇよ!」


冗談を言いナミの手を引きながら病室に入る。


不意に煙い匂いがした。


「ナミ……」


「ん?」


「煙草吸ってねぇよな?」


握ったナミの手が小さく反応する。


俺は全力で疑いの眼差しをナミに向ける。


「吸、ってねーよ。」


「明らか吸っただろ!バレるんだから嘘つくなよ!」


いや、だからさ〜、と言い訳を聞き流して、俺はため息をつきながらパイプいすに座る。


病室はいつもと同じ薬品とナミの香水に混ざって何か違う匂いもしたが、もうつっこむ気力もない。