「ま、気長に根気よ~く頑張りなさいよ」
「お―…」
覇気のない返事を返すのも俺の最近の日課となりつつあった。
俺はカルテをしまって、病院を後にする。
外に出ると、梅雨特有のジメッとした空気がよりいっそう俺の心をモヤモヤとさせるようだった。
だけどそれから一ヶ月後。
そんな思いをぶっ飛ばすような出来事が起こってしまった。
仕事帰り。繁華街で偶然彼女を見かけることができたからだ。
それはほんの一瞬だったけれど、確かにそこにはずっと会いたかった彼女の横顔が俺の視界いっぱいに入り込んだ。
「えっ、ちょ、ちょっとはるさん!?」
「悪い!急用ができた。食事はまた今度にしてくれないか?」
一緒にいた女の手を振りほどき、俺は夢中でその後ろ姿を追いかけていた。
こんなチャンスは二度とない。
その気持ちだけが、俺を一気に突き動かしていた。



