「あの、ちょっと!」
……え?
その声に振り返ると、少し小走りでこっちに向かってくる彼女が目に飛び込んできた。
三月果歩…
まさかの彼女の姿に、俺は運転席のドアを中途半端に開けたままピクリと動きを止めた。
「えっと、さっきの人……」
なぜか困惑気味の彼女。
一瞬俺だよな?
と、呼ばれたことに再確認していると、風で飛ばないように帽子を手で押さえて来た彼女が俺の目の前で足を止めた。
ドクン……
その姿に柄にもなく緊張の糸が全身にはりめぐされる。
「これ、忘れ物。なんか返しそびれちゃったみたいだから」
そう言って手渡されたのは、さっき俺が差し出した黒色のハンカチ。
「さっきはどうも……。助かったよ」
「…ああ……」



