もう少しその指に触れていたかった。
その魅力的な姿を俺の瞳に焼き付けていたかったけれど、再び彼女は遠ざかってしまう。
最後に俺を見た姿はさっき以上にぎこちなくて、俺の心に残るのもやっぱりもどかしさだけだった。
「ありがとうございました」
会計を済ませ、外に出るとパラパラと降っていた雨はいつの間にかやんでいた。
今日も進展なし……か。
いい大人が何うだうだしてるんだろうな…
そう反省しながらも、今まで俺から本気で誰かを求めたことなんかない。
自分からアプローチをかけたことなんて一度も…
「はぁ。情けね―…」
この年になって好きな女一人満足に口説けないなんて…
思わず空を仰ぎそのまま車に乗り込もうとすると、背後からバタバタと慌ただしい足音がした。



