このままこの腕ごと引き寄せたい衝動にかられた。


思わず抱きしめたくなるほどに彼女からはとてもいい香りがした。



『会いたかった』



と一言耳元で囁けたらどんなに幸せなのだろう。


たった一言『好きなんだ』……と。


……けど、現実はそんなに甘くない。





「いや、私は大丈……」


「すみません。大丈夫ですか!?」



後ろから勢いよく声をかけられて、俺はハッと現実に引き戻される。


まるで魔法から解かれたような気分。


奥の厨房から慌てて出てきたであろう中年の男が彼女の変わりに頭を下げる。


きっとここの店長かなにかだろう。


深々と謝れる中、再び離れてしまった彼女との距離に急に寂しさを感じてしまう。